「父は孤独な人でした。私達家族のことは顧みず、いつも自分の部屋に、自分の内側に籠もりっきりで本ばかり読んでいました。私はそんな父の背中ばかり見ていたので、顔さえもよく思い出せないくらいなんです。ほら、そこの出窓のところを見てみてください。いいえ、出窓には見えませんよね。文庫本が窓一面を覆うように積まれて、カーテンも締め切って。こんな調子だから、この部屋はいつも真っ暗で、私はずっと父の部屋に入るのが怖かったんです。探偵さん、父は私のことをどう思っていたのでしょうか?突然こんなことになってしまって、普通なら涙のひとつも出ると思うのですが、逆に辛いぐらいなにも感じないんです。」
「たしかに、お父様は寡黙な人だったようですね。寡黙という表現では少し足りないぐらい。ところで優子さん、文庫本っていうのは、本屋さんに並んでいるのを想像すると分かりやすいかもしれませんが、背表紙が出版社やシリーズによって独特ですよね。色とかデザインとか。例えばハヤカワSFなんかは、それだけで宇宙を想起させるような絶妙な水色です。」
「ええ。でもそれがなにか?」
「その出窓のカーテンを開けて、外からこの部屋を見てみてください。」
「え?はい、、。ああ、、これって、、もしかして、、」
「気づきましたか?居間に飾ってあったあなたの七五三のお写真のお顔に見えますね。いわゆるモザイクアートのように、文庫本の背表紙の色やデザインを絶妙に組み合わせて作ったのでしょう。」
「なんで、、こんなものを、、」
「お父様には、理由は想像する以外ありませんが、なにか心を閉ざさざるを得ない出来事があったのでしょう。ご家族にもうまく説明できず、その苦悩は相当に深いものだったと思われます。しかし、決してあなたを愛していなかったわけではない。非常に不器用だとは思いますが、こうすることでしかあなたへの愛を表現できなかったのでしょう。」– 『読書家探偵 最後の挨拶』by.newnakanostories
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『〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』 町山 智浩
これもジャケ買いの部類です。見つけた瞬間、「あ、これ家に置いときたい」と思いました。いまもテーブルの上に置いて、仕事をしながら、チラチラ眺めていい気分になっています。
この本は〈映画の見方〉を変えた! 『ブレードランナー』や『未来世紀ブラジル』、『ロボコップ』に『タ ーミネーター』……今や第一線で活躍する有名監督による80年代の傑作が、保守的で能天気なアメリカに背を向けて描いたものとは、一体何だったのか──。膨大な資料や監督自身の言葉を手がかりに、作品の真の意味を鮮やかに読み解き、時代背景や人々の思考まで浮き彫りにする、映画評論の金字塔。
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この週末もきっと我が家の本タワーの高さはどんどん伸びていくのでしょう。
またご紹介します。